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僕たちはやっぱりあの場で話し合っておくべきだったんだと思う
誰にも見つからないようにこそこそと
誰かに見せびらかすように大きな声で
君に伝えたいことは大体伝わってると思ってたこの傲りを罵って欲しい
伝わることなんて、伝えようとしてちゃんと言葉にしないと伝えられないのに
何をそんなに自分に自信があったんだろう
誰が僕に自信を持たせてしまったの
誰に言えばわかる
誰に言えば終われるの
君の前で偽りの僕の言葉と僕の気持ちを全部見せてあげたいのに
サミシイネ
なんで心から好きなのにこんなふうになってしまったんだろう
他の人には無意識で隠し倒せるほど余裕ある心があなたの前では見え隠れする
本当は気付いて欲しくて仕方なかったのかもしれないし本当はもっとかまって欲しかったのかもしれない
結局自分の本心にすら気づけずにそうしてまた同じようなことをしてあなたを困らせてしまう
心の距離がどうだとか
本当は信頼してないんじゃないかとか
そんなことじゃないのに
あなたを心から信頼してるのに
こんな風にすれ違うのはなんでだろう
昔誰かに言われた言葉がずっと心の中にある
そんなに自分の気持ちを隠して生きていたら本当に自分の気持ちが分からなくなる日が来るよ
あなたにならわかってもらえるのかもしれないと少し期待はしたんだけど
結局自分でわかってないんだから
誰にも伝えられるわけがないんだよね
そうしてまた少しづつ沼にはまっていくような感覚だけが残る
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なんとなく感じたあの違和感をそのままにした自分に嫌気が差す
金木犀
電車の中だろうと例えばエレベーターに乗っている時だろうと徐にキスをねだる君が好きだった
『人目を考えなさい』
なんて言いながら本当は僕だってたまらなく可愛い君にキスをしたかった
自分の欲求にとても素直な君に少し嫉妬しちゃうくらいには僕は自分の真面目さがコンプレックスだったのかもしれない
信号待ちしている僕の服を少し引っ張ってねだってみせる君がたまらなく恋しくなった
君の世界には僕だけしか見えてなかったんだと今になって優越感に浸ってみてはそんなのも昔の話なのかと落胆する
金木犀の香りが帰り道に巻き散らかされているこの街が僕はどうも嫌いにならない
君がにこにこしながら金木犀の香りがあなたを思い出させて忘れさせてくれないのと言うその言葉を思い出した
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やり残したことといえば
君とどエロいことをもっとしておけば良かった
夜の道の中でもっと溺れるほどキスでもしておけば良かった
どうせ君は僕の中になんて残ってくれないんだから
それならいっそのことあの夜のうちだけでも引きずり込んでしまえばよかったのだ
なんて臆病で弱虫なんだろう
臆病なくせして一丁前に欲しいものは欲しいと言えちゃうんだから
僕はもっとやりたいことがあったし
君とやらないといけない使命が沢山あるはずでしょう?
なんで君はそんな簡単に僕の手の内をすり抜けて夜の街にまた溶けてしまうの
僕が見失っておろおろしている隙に
スッと隣に戻って見せたりして
どうせ見えなくなってしまうなら
その前にもっと激しいキスを浴びておくんだった
みんながいる前で大声で好きだとか
そんな恥ずかしいことだってできたかもしれないのに
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ちゃんと、
ちゃんと好きなんだと心に言い聞かせた
昔から飽き性で振り向かれた瞬間に気持ちが冷めちゃう 悪い癖だった
君もどうせ同じだろうと
なんとなく距離を置きたがる
少し先に踏み込めない君だから
こんなに惹かれてこんなに好きなんじゃないかと思っていた
本当はずっと不安で自分の気持ちに正直になれなくて焦った
本当は君が僕を好きになってくれるのが少し怖かった
僕の気持ちがそれで覚めてしまったら君をとても傷つけてしまいそうで抱きしめたいはずなのに言葉足らずのままゆっくりとしか力を込められなかった
いつからだろう君が心を許してくれるようになったのは
君が僕に笑いかけてくれる度にあぁちゃんとこんなに好きなんだと思えた
会う度に初めて好きと伝えた時のような笑顔で僕を迎えてくれる君がたまらなく愛おしい
あんなに不安だった僕の気持ちが嘘のように
僕はちゃんと、とかしっかり、とかそんな義務的なことじゃなくて心から好きだと思える人に出会えて、そう思い合えてるんだと嬉しくてまた君を抱きしめたくなる
はつかの朝
なんでこんなに言い知れない気持ちになるのかわからないけど君はいつだってそうだ
そうやって手も繋ぐ気もないくせにすっと僕の手の横をすり抜けてみせたり抱かれる気なんてさらさらないくせに君はいつでも少し寂しそうに目を伏せる
もう騙されないと何度自分に言い聞かせて家を出ただろう
君が取ったホテルにふたりで転がり込んで少し黙りこくってみせても君は何も変わらずに静かにタバコを吸うんでしょう
『じゃあまた』
何がまたなんだろう
次に何があるんだろう
『うん、気をつけて』
あと何回こんなことを繰り返せば君は手を繋いでくれるようになるんだろう
ひとりになってもうすっかり日が昇った空に手を伸ばしてついさっきまで君が薬指につけていた指輪を僕の小指に見つけた
バイバイと手を振る君の手をよく見ておかなかったこなとに後悔する
あぁ、君はまたそうやって少しだけ僕のことを引っ張ってみせて次に会う時までに片付けられない気持ちにさせる
何も気がつかなかった自分に嫌気がさして
君のその器用さにもっと嫌気がさして
でもやっぱり愛おしいと思う気持ちがどうにも消えてくれなくてまた家に連れて帰るしかないことに気がついた