三日月を歩きたい

満月生まれです

大人になると嘘が上手くなるのだと思っていた

おとなになって僕は嘘がつけなくなった

すぐに見破られる目が怖くて

本当のことなんてなにも言えないのに

臆病者な僕はそれを誤魔化すように口を濁す

嘘も真実もなにも言えなくなった僕は大人という大きな殻の中で小さく足をくむ

駅の改札口

4ヶ月前に会った時君はまだ少し殻をかぶっていた

 

僕にしか見せない姿があるんだと心の中では小さな優越感に浸りながらその日は別れたのを鮮明に覚えている

誰にも見せない姿を垣間見せてくれてるんだと

僕は多分自惚れていた

それが君の殻だとも知らずに。

どこを向いているのかなんの話をしているのか少しずれてる気持ちがしながらも

何回あっても僕は君のことが好きだった

もうバレてるはずなのに一歩を踏み出せない僕を心の中で嘲笑うかのように君は静かに手を添えてくる

僕はこのなんとも言えない距離感に慣れてしまった

君と最初にふたりで会った時のドキドキ感が薄れていくのが少し悲しくも誇らしい

あと何回会えば君の殻を開けられるのかわからないまま4ヶ月後の約束をして手を振った

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ヨル

少しだけ遅かったんだ

あと1年気持ちがズレたらどうなったんだろう

少し大人になりすぎた僕たちは夜の繁華街を歩きながらあの頃の記憶に耳を傾ける

出会ったばかりの君はとんでもなく輝いて見えてどうにかしてその手を掴みたかったのに今になってそれは簡単に掴ませてはくれないものだったからよかったのだと悟った

よく好きな人を好きな自分に酔うとかいうけれどまさしくそれと同じだった

君のそのブラウスに手を伸ばしてみてはあの頃の僕のなにか大きなものを期待した目がこちらを見つめている

誰でもよかったのかもしれないなんて悲しいことを考えながら

君以外のことを少し思い出した

大人になったつもりでいた僕たちはちっともおとなになんてなりきれないまま夜の街を缶ビールとスミノフ片手に歩いた

酔ってるフリなんてしなくたって君は僕に笑顔を向けてくれたけどどうしていつも同じように嘘をついてしまうんだろう

誰にも見せないつもりだった扉に手がかかった

何になりたいのか君は何者なのか僕は誰なのか何も分からなくなりそうになる

ふと目を開けると少し寂しそうな顔をした君が目の前で笑った

イムリミットが近づいているのに僕は気がつかないフリをしていたのだろう

こんなに長い間ふたりでいたのに何にも伝えられないまま君は朝焼け光がさす繁華街に溶けていく

安っぽい言葉しか出てこなかった

好きとか愛とかそんなものでは言い表せないなんとも言えない気持ちが完全に登りきった太陽とは裏腹に身体に暗く深く響く音がした

春の日

これからもほんの小さなことで幸せだなってふたりで笑い合えたらいいな

雨が降って急いで帰ったら洗濯物がびしょ濡れになっててふたりして大爆笑したあの日がすごく幸せだった

ほんの少しのすれ違いでもきちんと君が僕の話を聞いてくれるからちゃんと幸せな時間になった

いつも機嫌が悪くなるのは僕の方だけど君は毎回飽きずに話を聞いてくれるから優しさに溺れてたのかもしれない

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君が今日は天気がいいから散歩に行こうと笑う

こんな風に春の風が気持ちいい日は幸せだよねなんて言いながら君はスキップで家を飛び出した

どんな天気でも繰り返される毎日の延長だと思っていた僕はそう笑いかけてくれる君が幸せなんだと思った

なんでもない日に買って帰る花もケーキもいつも大袈裟なくらい喜んでくれるから

僕は調子に乗って毎日君と過ごす時間の中に沢山の幸せを見つけた

これから先もずっとこうして変哲もない日常に君との幸せを重ねたい

アルフォート

スーパーのお菓子売り場の前に立って

たけのこの里きのこの山を見比べる

あぁどっちにしようかと考える

お母さんが僕の名前を呼ぶまで真剣に悩んでいた

ふとそんな懐かしい気持ちになりたくて

スーパーまで歩いてみた

どっちも食べてみたいこの気持ちをなんとなく防御しながら

アルフォートに手を伸ばす

意味のない涙が頬をつたう

時々不安になって君といない未来が怖くなる

誰かの隣にいる僕はきっと笑っているのかもしれない

君の隣でなくたって笑えてるのかもしれない

ただ君の隣でしか僕は僕でいられない